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『朗読者』  ベルンハルト・シュリンク

『朗読者』

 ベルンハルト・シュリンク 新潮社クレストブックス(現在は新潮文庫)

朗読者(新潮文庫)

朗読者(新潮文庫)

 

 刊行当時は、かなり話題になった小説だ。

 根がへそ曲がりなこともあって、ベストセラーにはすぐに手を出さないタイプなので、かなり時間がたってから読んでみた。少年が女性に本を読んで聞かせるという、独特な設定がページをめくらせる。

 読み終えてみて、やっぱりというか、特に結末に驚かされた。●●という登場人物の設定が、ミステリー小説(?)のなかに出てくるのは、なかなかすごいと思わされた。現代の日本では、ちょっと考えつかないような気もする。

 ハンナという女性の、自身への羞恥、誇り、罪の意識など、複雑な人格描写に、この設定が非常に大きな役割を果たしている。

 何となく純文学(私小説という意味ではない)のジャンルに入っているような感じを受けるのだけど、作者の基本は、やっぱりもともとミステリー畑の人なんじゃないかなと思った。

 個人的な感想としては、扱っているテーマの重さ、歴史的事実に焦点を当てて、これほど読みやすい小説にしたところがすばらしいと思う。極端に会話が少なく、心理描写が多い。こんなところも、エンタメ小説っぽい感じを与えないのかもしれない。

 題材がナチスであり、結末も悲劇的。でも、実際の歴史を考慮すれば、とてもハッピーエンドにはなりえなかっただろう。だからこれでよかったのだ、きっと。

 ラスト、過去の物語を書いてそれを見つめている「ぼく」という存在が、いっそう際立ってくる。設定自体が読み聞かせだから、オーディオブックで聴いたら、さらに面白いのかもしれない。